This page uses javascript. please turning javascript on.
このページではjavascriptを使用しています。お使いのブラウザ設定より、javascriptをonにしてください。

ARK TYP CONNECT 111120 Yui Onodera 小野寺唯 コネクト

sound by Yui Onodera

所有する沈黙の解像度 Yui Onodera

Yui Onodera diagram no.1

Yui Onodera diagram no.1

如何に最小限の音(量、数)で空間と時間を構成するか、という引き算の美学は日本庭園などにもよくみられる日本古来の美意識に基づいたものである。先ず時間があるのではなく、音と音との“間”に時間が生まれてゆくという控えめな姿勢は、その静寂によって受け手の想像力の喚起を促す。それは機能を強制するオブジェクト化された大文字の音楽ではなく、ゆっくりと周囲を包み込み、鳴らされうる環境を許容し、調和をもたらす、弱い音楽である。

Yui Onodera diagram no.2

Yui Onodera diagram no.2

明確な全体を持たずに部分と部分の局所的な関係性から音楽が形成されてゆくことで、分節され、完結するという在り方から距離をおき、曖昧な秩序によってもたらされる明確な始まりと終わりを持たない未分化なストラクチャーが生まれる。

Yui Onodera diagram no.3

可塑的に変容してゆく都市の一時的出来事、記憶の場としての環境音。それらの互いに脈略のない断片的な事象と、体験の集積を関係づけてゆく作業によって、ひとつの音楽が織りあがってゆく。

Yui Onodera diagram no.3

固定的なデザインの対象でありながら、多様性に富んだ音の特徴を持ち、そこに歴史と文化を持ち込むもの。日常においては意識的に聴かれることのない、秩序への指向を持たないミクロな音群も、プリミティブな音楽体験として感受され、私にとっては立派な楽器の一つでもある。

Yui Onodera diagram no.4

Yui Onodera diagram no.4

それは時間の連続である以上、一挙に体験出来るものではない。耳を澄まし、時間的な経過に伴って様々な情報を収集し、それらの積算としてある印象が感覚として残るものである。
・社会的慣習が音楽に与えた名称を裏切ること
・機構や権力の意志の表現としての「音楽」ではなく、個人(民衆)の意思の表現としての音楽であること
・環境と人を繋ぐ中間領域として、構造ではなく関係性を作り出すこと

Yui Onodera Interview 小野寺唯 インタビュー

interviewer:masanori diefor インタビュアー:大法マサノリ

小野寺唯 インタビューページ1 yui onodera interview page.1

『所有する沈黙の解像度』制作背景について

-----こうしたダイアグラムや音を巡る環境・状況についての提言をストイックに公開されるというのは珍しいことのように思うのですが、今回、こうしたマニフェストともいえる内容を制作されるに至った経緯などお聞かせいただけますか?

ある特定のシーンの中に入ってその内側で何かをやるのではなく、距離をとって「こういうフレームで考えないといけないのではないか」と問題提起することが、アーティストに与えられるべき課題であると考えていて、今回のテキストや図形楽譜もそのような問題提起というか、自身の制作における指針となるようなものを出来るだけ解り易くまとめてみようと思いました。

音楽分野に限って言うと、作りっ放しではなくてきちんと自作に対して言葉でフォローするという態度が希薄なので、今回せっかくこの様な機会を頂きましたので、言葉や視覚的な要素によって更に音楽に深みを持たせるような新しいことにチャレンジしてみようと思いました。また、これらのテキストや図形楽譜そのものが視覚的な音楽として作用するような多義的な意味合いを持つものとして機能するよう意識しました。

フィールドレコーディングという手法について

-----近年、比較的安価で高機能なフィールド・レコーダーの普及により、音を録るということが一部のプロやマニアだけのものではなく、日常的な記録の方法として徐々に広がりをみせつつある中、わたしたちの生活を取り囲む音=サウンドスケープへの意識は近代におけるそれとはまた異なる文脈で再発見/更新される可能性があるように思います。小野寺さんご自身も環境音をソースに用いた作品をこれまで多数リリースされていますが、フィールドレコーディングという手法を一つの楽器として選ばれた理由はなんなのでしょうか?

手法としての珍しさはもうありませんし、ホント私にとっては作曲に使用するための数ある楽器の選択肢の一つという感覚です。マイクを向けるという行為のなかにも独自性が含まれていると言えなくもないのですが、私の場合はまずそれだけでは自身の創造的欲求が満たされないというのと、これまでに聴いたことのないものを作りたいと思って毎回臨んでいるので、既存の音環境を拡大してそのまま持ってくるという選択肢はありません。

サイトスペシフィックなものを音楽だけで成立させようとするよりも、その環境を利用したインスタレーションという形式のほうがより刺激的な表現のように思えるんです。構造や素材が自分らしさを語るのではなくて、それらをどのように新しい組合せで構築してゆくのかという問いに対して解かれてゆくプロセスこそオリジナリティなのだと思っています。

小野寺唯 インタビューページ2 yui onodera interview page.2

音楽と建築について

-----音楽をつくるとき建築に置き換えて考えてみるというようなことを以前おしゃっていましたが、具体的にはどのような発想のプロセスなのでしょうか?

岩手県立美術館 Iwate Museum Of Art
Iwate Museum Of Art

建築も含めた外部からの方法論を応用して作曲してみることにはとても興味を持っています。既存の環境に異物である建築を挿入する場合、如何に主張させずにそこに溶け込ませるかという思想が建築界の中にもあって、それってまさにアンビエントじゃん、と驚きました(笑)。
新しい素材がトリガーとなって新しい構造を生み、見たこともないような建築が表れてゆくというプロセスは、音楽も一緒です。
また、最近は制作プロセスにおいても建築のように多人数を巻き込んで長期間かけて作りたいと思っているんです。単純に設計・施工までを閉じた世界で完結させるのではなくて、構造的な骨格となる部分はこの構造設計者と、あるいは特殊な仕上げの左官部分はこの職人に依頼しようとか、必要とされる技術とセンスを有した人間を適材適所で起用し、全体を構成してゆくセンスが求められます。

ブライアン・イーノが最近インタビューで仰っていましたが、「本当に良い作品が生まれる場面では自分や周りの人間がそれぞれの得意なスキルをバランス良く貢献し合い、結果を生み出す」と。ありものをかき集めて矢継ぎ早にリリースを重ねることも簡単に出来る時代ですが、多くの人間と共に議論を重ねながら練り上げてゆくことが重要ですし、それが音楽を豊かにしてくれるはずなんです。

-----音楽から建築をみる、あるいは建築から音楽をみるという双方向的視座において共通の言語といえるのは空間という共有のグリッドだと思います。アーティストとして音によって表現をされている小野寺さんにとって、作品の制作において空間という問題はどういった角度から求められ、その空間=沈黙の解像度はどのような次元で決められるのでしょうか?

基本的には音って空間あっての物理現象なので、私にとっては空間を無視することのほうが難しいです。「沈黙の解像度」とは音が鳴らされる以前の空間のことを指していて、音楽の像は一人で聴く場合と複数人で一緒に聴く場合、それから時間帯やパーソナルな個別の状況にも大きく左右されると思うのですが、それ以外にも空間固有の周波数特性や残響特性、空間の照度や温度と湿度、それらを規定する素材によっても随分変わってくると思うんです。

空間に対して自分の音楽を無理やりに押し込めるのではなくて、空間や状況の条件によってゆるやかに変化させてあげることも重要ですし、聴き方をプロデュースすることも作曲の一部だと思っています。最近は寺院や教会、船上や展望台フロア、歴史的建築物などでのイベントもすごく増えてきていて、音楽体験としてすごく豊かな状況が生まれていると思います。

小野寺唯 インタビューページ3 yui onodera interview page.3

これまでの活動と今後の展望について

-----昨年はCelerのウィルと共に東京とロサンゼルスという異なる都市のサウンドスケープを取り入れた、ある意味、都市論的アプローチともいえる作品「Generic City」をTwo Acornsよりリリースされました。音のデザインからみる現代における都市の風景=サウンドスケープの状況を率直にどのように捉えられていますか?また、小野寺さんはその経験をご自身の中でどのように関係づけられることで作品化されているのでしょうか?

Yui Onodera & Celer / Generic City Two Acorns (USA) 2010 CD
Yui Onodera & Celer / Generic City
Two Acorns (USA) 2010 CD

都市のサウンドスケープが面白いなと思ったのは「雑多」なところなんです。東京のような過密の文化で起こっているサウンドスケープの節操のなさというか、私にとってはそれが非常に興味深い対象のように思えたんですよ。

ミクロな音響現象にフォーカスするとか、サイトスペシフィックな自然環境を記録するといった方法はもう既に確立されていて、多くの作品が世界中に溢れているので、それとは異なる視点からフィールドレコーディングを行なわなくてはいけないなぁと、漠然とした考えがまず最初にありました。

マリー・シェーファーのそれとの違いは、都市のサウンドスケープに対して否定的になるのではなく、積極的に面白がってみるというところですね(笑)
世界の調律が振わなかったのは、恐らく工業化が進む都市経済にうまくマッチすることが出来なかったからで、逆に資本主義的に表れる無性格で無機質な無印都市を肯定してみると、状況の滑稽さの中に面白味を発見することが出来ます。そういった意味で東京は最高のターゲットでした。特に新宿、渋谷(笑)。

-----小野寺さんはアーティストとして音響作品をリリースされるだけでなく、サウンドスペースデザイン(建築音響設計)やアートグループ[+LUS]の一員としてインスタレーション作品なども手掛けられています。楽曲を制作する際と実空間の中で音響設計やインスタレーション制作にあたる際では音に対する能動的な意識の違いなどはありますか?また、音響設計やインスタレーションでの経験や知識はご自身の作品やその制作とどのような影響を与え合っていますか?

+LUS 20100220
+LUS 20100220

いつも、音楽という完成されたモノを作っているのではなく、人の心の動きをデザインするための媒体であるという意識を持って制作に臨んでいます。単に心地の良い「音楽」という「記号」を与えるのではなくて、聴取体験を通じて、これまでに感じたことの無かった新しい感覚や、驚きと発見にワクワクして欲しいと思っています。 これはインスタレーションの場合も同様です。音響設計の場合はクライアントが事前に明確な音のイメージを持った上で依頼してくる場合が多いので、要望と予算とのバランスの中で如何にそれを技術的にクリアするかという課題が比重としては大きいです。用途によって求められる空間音響の質が違いますので出来あがるものも一つとして同じものはありません。
そういう経験や知識は当然、自身のライブパフォーマンスでも活きてきます。事前に空間のボリュームや内装素材、キャパシティ(吸音率に関わる)を把握し、実際に鳴らされた時の音の具合を想定した上での準備を行なうことが出来ます。いずれの場合も音を中心に据えた活動なので自分の中では違和感なく相互にフィードバックしながら進められます。

小野寺唯 インタビューページ4 yui onodera interview page.4

-----「所有する沈黙」という言葉そのものがアンビバレンツな意味合いを含むように、今日では、“あるということ”よりむしろ“ないということ”をデザインすることの方がよほど意識的で重要でありながら、また同時に困難な時代であるような気がしています。こうした状況の中で小野寺さんがテキストの最後に書かれた中間領域としての関係性を今後どのようなかたち(作品や活動)によって表現/展開されようとしているのでしょうか?

インスタレーションによる既存の環境や状況の中に潜在的に潜んでいる隠れた意味や概念を抽出するといったことや、在るようで無いという空間内のアンビエント的な在り方によって、これまでに感じたことの無かった新しい感覚に気付き、多くの発見にワクワクして欲しいと思っています。

社会に対する洞察から作品のアイディアやコンセプトが生みだされてゆくことが多いので、モノを作るのではなくて、コトを生みだすような試みを今後も展開してゆきたいと思っています。

また、前述のとおり多様な分野の方々と共同してゆきたいと思っているので、今回のコンテンツを通じた新しい出会いに期待しています。どしどし感想やご意見などいただければありがたいです!

[ END ]

罫線

profile yui onodera 小野寺唯 プロフィール

Yui Onodera photo

Yui Onodera 小野寺唯
「環境/空間から捉えた音の機能と関係性」をコンセプトに音と音がつくりだす空間を含めたサウンドデザイン、サウンドスペースデザインからインテリアデザインまでを手掛ける。これまでにアメリカの名門”and/OAR”をはじめとする国内外のレーベルより数多くの作品を発表し、イギリスの音楽雑誌”THE WIRE”や、イタリアの“Blow Up”など海外メディアを通じて広く紹介され高い評価を得ている。その他、国内外のコンピレーション、コラボレーションに数多く参加。ポルトガルのアーティストThe Beautiful Schizophonic、アメリカのデュオグループCelerとのコラボレーションや、ポーランドのアーティストPleqのリミックスアルバム『Good Night Two』(PROGRESSIVE FOrM)に参加。岩手県立美術館や川越市立美術館、NTT InterCommunication Center、自由学園明日館など様々な建築/空間を利用したライブパフォーマンスを行っている。コンテンポラリーダンスの為の音楽やWebサウンドデザイン、ショートフィルムへの楽曲提供や企業広告音楽などその活動は多岐に亘る。
また、アートグループ+LUSを組織し、サウンドインスタレーションの発表やレビュアー業務なども行っている。
[web site] CRITICAL PATH

released infomation yui onodera 小野寺唯 リリース情報

The Beautiful Schizophonic and Yui Onodera

Night Blossom Yui Onodera 小野寺唯
  • artist : The Beautiful Schizophonic and Yui Onodera
  • title : Night Blossom
  • cat# : WHACD-7
  • date : 2011-12-14
  • JAN : 4582358980099
  • price : 2,000 円 (tax in)

ポルトガルのThe Beautiful Schizophonic(ザ・ビューティフル・スキゾフォニック)ことJorge Mantasと、Yui Onodera(小野寺唯)の2作目となるコラボ作。本作『Night Blossom』は、2009年にリリースされ世界的に話題となったコラボ1作目『Radiance』で見られた、繊細で透明感溢れるアンビエント/ ドローンを受け継ぎながらも、さらに深みに磨きをかけ、微粒子の集合体が空間を漂うかのような繊細なドローンと、プロセッシングされた自然音や情景豊かなピアノが折り重なった、さらにスケールの大きいサウンドスケープが描かれている。
電子音響やサウンドアートの文脈で語られることの多い両アーティストだが、本作ではその核となる部分をしっかり押えながらも、絶妙なバランス感覚を持って新たなサウンド表現にチャレンジ。それは、4名の日本人ミュージシャンのゲスト参加にも現れている。
電子音と器楽音の相性の良さを活かしたそのサウンドは、果てしなく広がる湿原をイメージさせるような雄大さを醸すel fogのヴィブラフォン( M-4)や、ソプラノ・サックスをプロセッシングすることで新感覚の音響/音像を創り出すtaishi kamiya(神谷泰史)のM-5に顕著だ。また、オランダ在住のサックス/笙奏者、佐藤尚美はフィールドレコーディングで( M-5)、PLOP やSomeone Goodからのリリースで知られる女性アーティストのMikoは日本語によるポエトリーリーディングで参加(M-6) 。その肉声は繊細なドローンを巻き込んで、体内に沁み込んでいくかのよう。
本作『Night Blossom』は、異なる2種類のパッケージでリリースされる。初回オーダー世界限定100枚として先陣を切るティンボックス仕様は、フォトカードとトラックリスト・シート入り。レギュラー・パッケージの紙ジャケットは、女性モデルを配した印象的なアートワークがジャケットを飾る。
[online shop] Whereabouts Records

music video The Beautiful Schizophonic and Yui Onodera Night Blossom

nubian clouds over Saskia The Beautiful Schizophonic and Yui Onodera
  • Movie by Junji Koyanagi
  • The Beautiful Schizophonic and Yui Onodera / Night Blossom
    Whereabouts Records (Japan) 2011
    Produced between spring 2010 and autumn 2011.
  • Masayoshi Fujita a.k.a. el fog (Vibraphone) on track 4.
    Naomi Sato (field recordings-voices) and taishi kamiya (saxophone)
    on track 5.
    Miko (poetry reading) on track 6.