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Yu Miyashita interview-interview by Masanori Diefor

- 音楽の制作環境や制作プロセスについてまず教えていただけますか?

制作環境

Hardwares
Computer: Macbook Pro (Core 2 Duo 2.5ghz)
Audio Interface: RME Fireface 400
Outboard: Focusrite Liquid Mix
Monitors: Dynaudio BM6A (JP), Tannoy Reveal (UK)
Headphone: Sony MDR-CD900ST

Softwares
Ableton Live 7
Renoise
Reaktor
...etc

制作プロセス

Cyan/nというフリーウェアを使ってサンプルを作る事が多いです。プレイバックの範囲と位置を変更しながら遊びつつ良い塩梅になった所で書き出しています。
Midiはほとんど使わないんですが、使った場合でもオーディオとしてバウンスしています。ソフトシンセ等立ち上げたまま作業続けると負荷が大きいので。
RenoiseってVenetian Snaresみたいな細かい打ち込みを多用するトリッキーな楽曲に使われるイメージが強いんですが、自分はドローンを作る時に使っています。
後は、Reaktorに音突っ込んでそれを書き出して、再度Cyan/nにそのバウンスした音を突っ込んだりしています。延々無限ループ(笑)。 予期出来ない音が鳴った時が一番楽しいですね。
こうして出来たオーディオファイルをAbleton Live上で並べています。
曲を作る前に構想がある訳ではなく、出てきた音を直感的に曲になるように並べている、という感じですね。

Yu Miyashita photo

- もともとはドラムをされていたそうですが、現在のようなジャンル/スタイルに移行したきっかけは何だったのでしょうか?また、音楽の制作およびパフォーマンスの環境がラップトップに移ることで音楽に対してご自身の中で何か変化はありましたか?

ドラムは中学2年の時に始めて、高校卒業までの日本に居る間は毎日練習してたと思います。
今思い返すと近所迷惑な話ですが(笑)。
イギリスへ行ってからクラブシーンに影響を受けてロングミックスするDJを始めてちょっとした位の時に、同じ大学で電子音楽を専攻してる日本人の先輩二人に「インターナショナルステューデント歓迎会」なるパーティーで知り合ったんですよ。
外国籍の学生の為の歓迎会だったんですが、僕が外に居たときに話しかけてくれて。
流れの中で音楽の話になってお互いDJする事なんかが分かってから仲良くなって。
それから僕がその先輩二人の家に出入りするようになったんですが、ここで所謂エレクトロニカに本格的に出会った感じです。
家でかかってる曲がいちいち良くて(笑)、毎回これなんですか?って聞いてたような気がします。

日本に居た時はバンドマンだったんですが、KorgのElectribeとかも興味があって触ってた感じで。
その流れでAbletonのLiveも持ってて、ちょこちょこループとかは作ってたんですね。
それが本格的に曲を作ってみようってなったのはこの二人の影響が大きいですね。
それからは空いてる時間に曲作りに没頭するようになりました。

新しいアーティストの音源を聞く度、新たな発見があって自分でもそれを試してみようっていう感じで。
この時は建築を専攻していたんですが、徐々に音楽への興味の方が大きくなっていって。
偶然同じ大学に電子音楽科があったので、思い切って専攻を変える事にしたんですよ。

当時の建築科のチューターに僕が作っている音楽を聞かせて、専攻を変更したいんだと伝えて、それから電子音楽科のチューターにも音楽を聞いてもらって。そしたら思いのほか反応が良くて「専攻の変更を認める」的な流れになって。
それで次年度から電子音楽科に入って音楽にどっぷり浸かりました。
暇さえあれば新しい音源聞いたり制作したりしてましたね、今とほとんど変わらないですが(笑)。

XIII - Yaporigami [2006]
XIII - Yaporigami [2006]
Saryu Sarva - Yaporigami [2007]
Saryu Sarva - Yaporigami [2007]

大学在学中にはYaporigamiとして2作品リリースしてるんですが、1stはBreakcoreで、この時の影響は19頭身のCDR君ですね。
2ndはIDMで、この時の影響はAphex Twinです。

大学の卒業制作の話になるんですが、僕はここでノイズミュージックを題材として選んだんですね。
それこそIncapacitantsとかMerzbowとかですよ(笑)。この事がきっかけでノイズミュージックを制作しだしました。
文章を書くのはあまり得意じゃないので、論文の評価は散々だったんですけど、制作の評価は結構良くて。
それでなんとか卒業出来ました(笑)。

ラップトップ主体の制作、パフォーマンスに移行していった事には全然違和感無かったですね。
というのも生の人間では演奏不可能な事もラップトップ上では再現出来ますし、そこに強い可能性を感じたので。


Yu Miyashita photo2

- 現在はイギリスを拠点に活動されていますが、日本のシーンやリスナーからのレスポンスの違いはありますか?

ライブの話をすれば、やはりイギリスの方が反応がダイレクトですね。良いライブをすれば「良かったよ」って言いに何人も寄ってくるしライブ中に雄叫び上げる奴もいたりするし。日本だとライブ終わって拍手されて「あれ、いまいちだったかな。」とか思ってたらtwitterで絶賛されてたりとか(笑)。

「グリッチ」「ノイズ」というタームに関して言えば、微妙にその意味する所が日本とイギリスで違うように思えます。
これは僕が思う所でどれだけ普遍的な意見か分からないんですが、イギリスでは「グリッチ」と言えば最近のダブステップに入ってるあのきりきりした音でしょ、という楽曲で使われている一要素という解釈をされている気がするし、「ノイズ」と言えばパワーエレクトロニクスでしょ、という解釈をされているような気がします。
逆に日本では「音響系」という言葉が存在するので「グリッチ」に対してはOval、Tone Yasunao等のアーティストを連想するし、「ノイズ」に関して言えばパワーエレクトロニクスだけじゃない範囲の定義をしているように思えますね。日本のリスナーの方がある意味ニッチな素養があるな、という印象です。

ではイギリスで実際にノイズというタームで連想されるミュージシャンって誰なんだろう?と考えた時に、それはおそらくSPK等なんだろうな、と思います。
日本発祥のノイズはジャパノイズっていう言葉で明確に分けられているので、Merzbow等はこっちに分類されるのかと。

イギリスにいて思う事は、コンピューターを駆使してレイヤーを綿密に重ねたような感じのノイズにはあまり遭遇してない、という事です。ノイズやってるよー、って言う人達のほとんどはアナログ機材を複数繋いでライブするタイプでしたね。
そんな中でも他の国の話になってしまうんですが、現在アイスランドに居住されているオーストラリア人のBen Frostには音楽的に凄く近いものを感じます。一度ブライトンで競演したのですが、「お前のライブ凄く良かった」って言ってくれて嬉しかったですね。別れ際に言うっていうのがまたニクいな、とも思いました(笑)。

- 本名名義であるYu Miyashitaの他に、よりリズムに接近=フォーカスしたYaporigamiという名義でも意欲的にリリース/活動されていますが、こうした住み分けはどの辺から生まれてきたのでしょうか?また、制作プロセスにおける意識的な違いなどはありますか?

音響ノイズ的な音楽を作り始めてから、名義はこのまま(Yaporigami)でいいのかな、というように考えるようになり分けた方がリスナーにも分かり易くなるし、自分のモチベーションも良い意味でキープ出来そうだと思いました。結果として今は住み分けが出来ていると感じるので良い決断だった、と思っています。制作プロセスにおける意識的な違いは、Yaporigamiの方が自然に曲が出来ますね(笑)。あんまり無理しないで自然に出来る感じです。逆にYu Miyashitaの方はストレスを感じてる時や不満がある時にしか作っていないです。そういう時に自分の精神状態を曲を作って治そうとする感じですね。自然というよりは捻り出す様に作っている気がします。


- 昨年、ミルプラトーよりNoble Nicheをリリースされ大きな話題を呼びました。Yu Miyashitaとしての実質的デビューであるだけでなく、アーティストとしてまた新たな局面を迎えられたようにおもうのですが、それまでのリスナーからの反応は率直にいかがでしたか?また、リスナー層に変化はありましたか?

Noble Niche - Yu Miyashita [2011]
Noble Niche - Yu Miyashita [2011]
Navy See Res in Brighton -Yu Miyashita [2011]
Navy See Res in Brighton -Yu Miyashita [2011]

それまでのリスナーというとYaporigamiを聴いてくれていた人達の事だと思うんですが、正直あんまり反応は良くなかったと思います。というのもやはりYaporigamiの一つの魅力として「ビート」というものがあったのに、それが無くなった訳ですから。当初は名義を変えずにアルバムリリースするっていう話もあったんですが、本名名義にした事で結果として差別化が図れて良かったと思っています。どちらかというとNoble Nicheで僕の作品を初めて聞く人達の方が反応が良かった様に思います。SNSで多くのメッセージを貰いましたし、メディアのレビューの数も自分が今までリリースしたアルバムの中で過去最高数になりましたし。Mille Plateauxの影響力が依然として強いという事の表れなんですが、そういった反応は素直に嬉しかったですね。

- Yaporigami名義ではHz-Recordからloopsシリーズ2作品をリリースし、分解系のイベントに出演されるなど、現代の日本におけるエレクトロニカシーンを牽引するようなネットレーベルの動きへ積極的にコミットされている印象が伺えます。Miyashitaさん自身はネットレーベルというシーンについてどのように考えられていますか?

Loops 1.0 - Yaporigami [2011]
Loops 1.0 - Yaporigami [2011]
Loops 2.0 - Yaporigami [2011]
Loops 2.0 - Yaporigami [2011]

2009年頃に僕は今のYaporigamiのようなスタイルの音楽を作っていて。俗に言われるグリッチ、ノイズ的な音をフロアで踊れるようなビートと混ぜ合わせた様な曲ですね。それでレーベルを探していたんですね、こういう音がハマる様なレーベル無いかな、と。
そしたら2010年にHzが東京で立ち上がって「お、ここ面白いかも」と思ったんですね、楽曲の中で使用されている音が似ている感じだったので。でもまだやっぱり踏ん切りがつかなくて。フィジカルで出したい欲もあったし、海外から出した方が箔がつくんじゃないのか?とか考えたり。それでちょっとしてからTakeshi KagamifuchiのリリースがHzから出た時に「フリーでこれやっちゃうんだ、面白い」と素直に思ったんですね。それまでは色々ネットレーベルに関して邪推してたんですけど、結局は音楽自体にやられたという(笑)。音楽が良かったから、僕も仲間に入れて欲しい、と思いました。
昔からネットレーベルは世界中にぽつぽつ存在していたんですが、ここ2、3年で日本のネットレーベルのシーンは急速に拡大した様に思います。ミュージシャンにとって、多くの人に自分の曲を聴いてもらえる可能性のあるプラットフォーム(ネットレーベル)がある、というのは有意義な事だと思います。無料でDL出来るので、音楽の内容さえ良ければ口コミで広まりますしね、SNSとの親和性も高いですし。


- 今回、CONNECTの方に「Homage to Oval」という作品を提供していただきました。年代的にみるとサインウェーブやグリッチといった音楽についてはぼくらはほぼ後追い世代になるとおもうのですが、こうした音楽との出会いや、当時の印象も踏まえながら、Miyashitaさんにとっての現在におけるグリッチというタームについてお聞かせください。

グリッチというタームとの出会いは大学での卒業制作の下調べをしていた時だと思います。それまではそれと知らずにグリッチミュージックを聞いていたのですが、言葉でカテゴライズ出来る事を知ったのはこの時ですね。現在におけるグリッチというタームは何というか一つのファッションとして使われるようになってしまったと思います。グリッチがまだ革新的なタームであった頃は求心力があったと思うんですよ。まあこういう流れは今の時代どこでも起こる当たり前の事なんですが——。

Jade Fib - yaporigami [2012]
Jade Fib - Yaporigami [2012]

自分にとってグリッチっていうのは、コンピューター上でひたすらコーディングして特異なサウンドを生成したり、それまではエラーとして捉えられていた音を積極的に使用したりする事によって生まれたギークにとってのパンクのような印象ですね。「vivienne着てモヒカン」だったのが、「ラップトップ買ってきて誤用」にアップデートされた訳ですね。かなり強引な解釈ですけども(笑)。
僕にとってそれはひとつのゲームをやり込んでバグを発生させて楽しんだりする事に見れるような「起こってはいけない現象を強引に誘発させて楽しむ事」というか。僕自身そういう精神性は昔から凄く好きですね。

- 今年、最初のアクションとして自身の音楽レーベルvvhyを立ちあげられ、Yu Miyashitaとしては約一年ぶりとなる新作An Arcをリリースされました。 昨年、お話させていただいたときにはレーベルを立ち上げるつもりはないというようなことをおっしゃっていた記憶があるのですが、最後にその辺りの心境の変化なども踏まえながら、記念すべきローンチタイトルとなる新作An Arcへの想い、そしてレーベル立ち上げの経緯や、その将来的な射程=コンセプトをお聞かせいただければと思います。

凄く簡潔に言うのであれば、自分が作品を出したいと思うレーベルから出せそうにないから、です(笑)。それと日本とイギリスを行き来してるので、フィジカルで作った場合在庫の保管に困る、という理由もありました。只、その点に関してはデジタルで出すという事で解決しましたが。
Noble Nicheの時はまだ制作の方法論も確立出来ていなかったのですが、今回の作品ではそれが出来ています。レーベルの活動としては自分が面白いと思える事をしていきたいですね。ありきたりな答えですが(笑)。

- ありがとうございました。

[END]